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貫き続ける女子校としての存在意義、「西遠式ICT教育」で進化した協同学習/静岡県西遠女子学園

貫き続ける女子校としての存在意義、「西遠式ICT教育」で進化した協同学習/静岡県西遠女子学園

共学化に踏み切る男子校・女子校が増加中

1906年の創立以来、女子校としての存在意義を貫き続けている静岡県西遠女子学園 1906年の創立以来、女子校としての存在意義を貫き続けている静岡県西遠女子学園

近年、男子校・女子校だった学校が共学化する事例が増えている。首都圏の私立中高一貫校だけでも、ここ20年で28校が共学化に踏み切った(23年度以降に共学化が決定している学校も含む)。

背景にはさまざまな事情が絡み合っているが、一つ挙げられるのは、少子化による生徒募集の激化だ。特に私立校の場合、経営的側面を抜きにして学校づくりを語ることはできない。安定した生徒数確保は学校法人にとって死活問題と言えるが、全体的な母数の減少により、男女別学で生徒数を確保することが難しくなってきたのだ。

また、受験者や保護者の共学志向が強くなっていることも挙げられる。ジェンダー意識の高まりもあり、性差にとらわれず男女が共に学べる環境のほうが、多様性のある教育が受けられるのではないかという考え方だ。そうした時代の要請に合わせて進化する意味で、積極的に共学化を決断する学校も多い。

女子校であること、女子校だからできる教育を大切にしたい

女子校であること、女子校だからできる教育を大切にしたい

確かに、上述のような多様性ある学びの環境が共学のメリットであるのは事実だ。しかし、それを優劣で語るのは適切とは言えないだろう。あくまで学校の特徴や個性の一環にすぎず、共学には共学の、男女別学には別学ならではの良さがあるからだ。

そのため、強い信念をもって男女別学を貫く学校も少なくない。静岡県西遠女子学園(浜松市)もその一つだ。同校は「婦人の中に未来の人は眠れり」を建学の精神に掲げる。「すべての人にとって、最初の教育者は母である」という考えから、女子への教養教育を目指してその産声を上げた。1906年の創立以来、時代や社会的価値観の変化に合わせて形を変えながらも、女子校としての存在意義を貫き続けている。

協同学習とICTの親和性の高さに注目

静岡県西遠女子学園  岡本忍 理事長 静岡県西遠女子学園 岡本忍 理事長

そこで同校がかねてより力を入れてきたのが、協同学習だ。教育界全体における協同学習への注目度がまだ低かった20年以上前から実践しており、授業はもちろん学校生活のいたるところに、友達と対話を重ねながら共に問題解決へ導く学びの体験が用意されている。

加えて近年は、ICT教育にも熱心だ。岡本理事長は言う。「協同学習とICTは極めて親和性が高いと感じています。『ICT教育』と聞くと、デジタルのスキルを高めることが想像されがちですが、本校では定義が少し異なります。協同学習をさらに深め、本校らしい女子校教育を推進するツールがICTだという位置付けです」。

同校では、2015年から Google for Education の導入や、教室へのICT環境の整備は進められてはいたが、2020年のコロナ休校でICT利用が一気に加速した。生徒の持つ端末と家庭のネット環境を緊急調査し、いち早くオンライン授業に向けて教員研修を実施して、Google Classroom による毎日の連絡、Zoom による朝礼や YouTube を利用したオンデマンド配信による授業などを次々と開始した。この対応は地域の周辺他校と比べても非常に早く、生徒や保護者からも感謝の声が上がったそうだ。

学びの空白を作らなかった成果か、コロナ休校を挟んだ模試で他校が軒並み苦戦を強いられる中、同校の生徒たちは成績が向上。教員もICTに有用感を得て、学校全体の意識が変わったと言う。

協働性を重視し、GIGA端末に ASUS Chromebook を採用

こうしてICTの活用に確かな手ごたえをつかんだ同校、コロナ第1波収束後は、折からのGIGAスクール構想を背景に1人1台の端末環境整備に乗り出す。採用したのは「ASUS Chromebook Flip」だ。

Chromebook は、Google 独自のOSを採用したノートパソコン。決め手となったのは、軽量であること、堅牢性、バッテリーの持続性など。キーボードの存在も重要なポイントだった。同校らしい協同学習をより深めていくためには、キーボード入力による資料作成ができる機能を重視したかったからだ。

協働性を重視し、GIGA端末に ASUS Chromebook を採用
協働性を重視し、GIGA端末に ASUS Chromebook を採用

例えばワープロ、表計算、プレゼンテーション、デジタルホワイトボードなどの機能がそれに当たるが、これらがすべてクラウド上で動作することも大きな特長だ。端末内にアプリやデータを保存する必要がないため、資料の提出や共有、共同編集が自在に行えて、時と場所も選ばない。まさに、同校が目指す協働的な教育環境には最適なツールだと言えた。

2020年時はとにかく即時の対応を優先したため、BYOD形式で生徒個人の端末を使用せざるを得なかったが、それが大きな課題ともなっていた。端末によってアプリ等の挙動や操作方法が異なるケースが多発したためだ。スマホを使用している生徒も多く、リアルタイムのタイピングによるコミュニケーションが取れなかったり、議論に参加できなかったりといった、端末による環境差も生まれていた。

しかし、Chromebook の導入を機に、統一性を得た同校のICT教育実践は一気に加速していく。以前から取り組んでいた教育活動や使用ツールはその多くが Chromebook 上に置き変わり、以前はできなかった新たな授業アイデアや取り組みも次々と生まれていった。

協働性を重視し、GIGA端末に ASUS Chromebook を採用

女子らしい主体的な学習意欲を妨げない

学園際に向けテーマをプレゼンする生徒 学園際に向けテーマをプレゼンする生徒

同校の強みである協同学習を象徴するのが、課題探究だ。加えてユニークなのが、学園祭そのものが課題探究の素材になっていることである。

一般的に学園祭と言えば、クラスごとにお化け屋敷や迷路を作るなど、レクリエーション的な題材が好まれがちだ。しかし同校では、各クラスがテーマを設定し、約半年かけてこれを研究していく。その発表の場が学園祭なのだ。テーマは多様で、絶滅危惧種の研究、お茶と食事のマリアージュといった地元(静岡)らしいテーマもあれば、教室内にダイオウイカやモアイ像などの巨大制作物を完成させ、来場者を驚かせるというものもあった。

さらにコロナ禍の2020年度は、インターネット上に再現。続いて2021年度は、オンラインとオフラインの融合を目指し、教室からクラスの発表を実況配信するなどの試みも見られた。学校に集まれない中でも、Chromebook を使って資料を遠隔共同編集したと言う。

静岡県西遠女子学園  大庭知世 校長 静岡県西遠女子学園 大庭知世 校長

自身も同校の卒業生だという大庭知世校長は、こんなエピソードを紹介する。公立中学から入学した生徒が、「女子校に入学したら、初めて『まじめに頑張ることはカッコいいんだ』と思えた」と語ったというものだ。中学までは、まじめにやろうとすると男子にからかわれることも多くて、積極的になれないことがあったその生徒は、女子校で大きく成長したという。

「当校は生徒同士の繋がりをとても大事にしていますので、異性の目を気にせず自分らしさをどんどん発揮してもらいたいと思っています。これができるのは男女別学の強みの一つだと考えています」

授業の質、コミュニケーションの質が向上

静岡県西遠女子学園  杉田利通 教頭 静岡県西遠女子学園 杉田利通 教頭

このような女子校らしさ、同校らしさは、授業にも色濃く表れている。独自の理科授業「教養理科」は、生活の中で役立つ理科を協働的に学ぶことが特長だ。例えば再生可能エネルギーや海面上昇などの環境問題をテーマに、グループで協力して調べ学習を行いプレゼンテーションするが、ここでもICTや Chromebook はフル稼働だ。

生徒の提出した課題に対する教員からのフィードバックやメッセージの頻度も格段に増え、コミュニケーションも密になった。

「特にICTとの相性がいいのは英語ではないか」と述べるのは、杉田利通教頭だ。「例えばスピーキングのパフォーマンステストだと、以前は一人ずつ対応するしかありませんでした。これだけで1〜2時間かかるうえ、他の生徒はその間自習するしかありません。しかし、発話を録画して提出してもらえば、こうした問題は一気に改善します。自分の発話にAIが字幕をつけてくれるので、発音が悪ければうまく変換されませんから、改善ツールとしても最適ですね」。

他にも、国語では作品の作者調べを行ったり、気になるニュースを調べて紹介し合ったりなど、自ら知識を「取りに行く」学びを大切にしている。物理では、完全に反転授業を実施しており、「解説動画なら途中で止めたり繰り返し視聴したり、自分のペースで進められて分かりやすい」と生徒からも好評だ。

汎用スキルの修得を重視し、学習管理を Chromebook で

終礼は Chromebook を用いて生徒が運営 終礼は Chromebook を用いて生徒が運営

学習履歴の可視化も、以前よりはるかに効率化した。以前の同校では、独自の「生活ノート」に生徒が記入することで、家庭での学習時間や目標の達成度を管理していた。しかし、Chromebook の導入と共にこれをデジタルに移行し、Google Workspace のスプレッドシート(表計算アプリ)で一元化した。

市場には、学習管理に特化した便利なアプリも出回っているが、あえてこの形を選んでいると言う。アプリに依存した使い方をしていると、そのアプリの操作スキルしか身に付かないためだ。「スプレッドシートなどのオフィスソフトの使用を習慣化することで、汎用的なスキルが習得しやすいと思います。デバイスやソフト、アプリケーションが変わっても対応できるという考えです」(岡本理事長)。

さらに、中学校での終礼も Chromebook を用いて生徒主体で進行するようになった。Google Classroom を併用しながら、連絡事項や1日の振り返りなどをクラウド上で共有する。担任は補足やサポートをする程度だ。

従来、教育におけるICTとは「手段」だ。それ自体が目的ではない。ICTと Chromebook の導入により「できること」が飛躍的に増えたという同校。女子校であり続けることへの理念と、Chromebook の活用で生徒の特性に合わせた教育でより主体的な学習を実現したのが「西遠式ICT教育」だと言えそうだ。

汎用スキルの修得を重視し、学習管理を Chromebook で
  • Google および Google Workspace for Education, Google Classroom, Google Earth, Chromebook は Google Inc. の登録商標または商標です。

静岡県西遠女子学園中学校・高等学校