商業高校の学びの新潮流、端末を Chromebook に一本化して臨む新しい教育/八洲学園 福岡女子商業高等学校
福岡女子商業高等学校が1人1台の端末に Chromebook を導入したのは2017年。2017年といえばGIGAスクール構想が始まる以前でのICT環境整備であり、全校生徒・全教職員に Chromebook を一斉導入した同校は極めて Chromebook 採用校として象徴的な存在となっていた。その後、2022年に新たにASUS Chromebook Flip CR1 (CR1100) (型番 :CR1100FKA-BP0003)を約400台更新した。いち早くICT教育に着手した背景や現在の端末活用について、同校 教務部長の徳永道昭教諭(情報科)に話を伺った。
町立から私立への移管を機にICT環境を整備
1950年に設立された福岡女子商業高等学校(当時、福岡県立筑紫野高等学校岩戸分校)。福岡県那珂川町の町立学校だったが、2017年から運営を八洲学園に移管。私立となったこのタイミングで、Chromebook を1人1台導入し、校内無線LANも設置してICT環境を整備。全国的にも先陣を切ってICT教育に乗り出した。以降、ICT公開授業を積極的に行うなど発信にも取り組んできたという。
「八洲学園が通信制の学校を運営している学校法人であることから、ICTとの親和性が高かったこと、また『新しい教育制度への変革の能動者』となることが学園のミッションの一つでもあることから、ICT教育のスタートとしてはとても良い環境だったと思います」。
2017年からいち早くICT活用を開始
同校では「女子校」「商業高校」の環境を強みと捉え、多様な外部人材と生徒を繋ぐことを大切にし、「生徒の10年後の自由」を実現できるよう教育を実践。元々は町立、また地元の那珂川で唯一の高校であることからも、地域との繋がりを重視し、地域社会に貢献できる人材の輩出に力を入れている。
近年は、「日本一若い校長」の学校として様々なメディアにも取り上げられている。30歳の若さで2021年度から校長に就任した柴山翔太校長は、同年度の入学式式辞において、「商業高校として掲げる教育は『起業家教育』。会社を起業することだけではなく、『自分で人生を切り拓く力を養う』という意味であり、すなわち『生き方』です」と新入生に述べている。
Chromebook に全て集約し、PC室は協働・共創のための空間に再構築
商業科で情報系の科目を中心に探究の授業も担当する徳永教諭。2021年度はICT推進部長に着任したが、Chromebook をはじめICT機器は完全に「学びの道具」となったとの認識から、ICTを「推進」する段階は終わったとし、教務部内の業務として再編。2022年度からは教務部長を務めている。学校からICT環境整備を全て任され、赴任当初から全教室の黒板の張り替え、プロジェクタの設置、校内ネットワークの再構築を行ったという。
同校にはPC室が3部屋あった。数年前までPC室で生徒が Windows を利用していたが、現在は全て Chromebook と Google のサービスに置き換えている。現在稼働している Windows 機は、行政からの文書を扱う事務室に数台と職員室に1台のみ。昨年、PC室から機器を全て撤去し、空いた室内は、アクティブラーニングなど生徒や職員が協働・共創するための空間に生まれ変わるよう現在構想中だという。
「商業高校全体で新しい動きを取り入れていけたらいいなと思い、その先駆けになろうと、思いきってPC室の Windows を全て撤去しました」。と徳永道昭教諭。
ASUS Chromebook Flip CR1 (CR1100)を約400台導入
2017年に導入した Chromebook の利用から約5年が経過したことで、端末の故障や老朽化、Chrome OS自動更新ポリシーの期限終了を迎えることなどから、2022年に新機種としてASUS Chromebook Flip CR1 (CR1100) (型番: CR1100FKA-BP0003)を約400台更新した。
国や自治体からの助成金を活用し、複数のベンダーを候補に検討。価格、スペック、OS更新期限、機能を総合的に判断してASUS Chromebook に決定したという。機種はペンが付属したモデルと迷ったが、タッチパネルに手書きすることに慣れている生徒が多いことから最終的にペンが付属しないほうの同モデルを選定した。CPUの性能は格段に上がり、Wi-Fi6にも対応。オンラインミーティングや動画教材、デザイン系のアプリの操作も快適だという。
「これまでの商業教育では、『マナー教育』『礼儀作法』といった言葉を前面に打ち出し、お客さまに失礼のないように、挨拶やお辞儀の指導を重視する場面も多かったと思います。しかし、リモートワークが当たり前の時代になった今、ネット上でのマナーやオンラインミーティングでの礼儀作法など、言葉が持つ意味も大きく変化していく中で、生徒に身につけてもらいたいリテラシーやホスピタリティも変化しています。
商業高校は就職を希望する生徒も多くいます。任された仕事をこなすだけではなく、自分で考えて業務改善を提案できるような人材になってほしい。そのためには、ICT教育の中で情報収集能力だけでなく、情報を取捨選択・加工するスキルを身につけ、他者と協働しながら課題を解決していく経験を積んでほしいと思っています」。
同校では、端末を学校資産とし、生徒へ3年間無償貸与している。徳永教諭は、Chromebook という強力な武器を味方に「未来は自分の力と工夫で切り拓く」という気概で3年間学んでほしいと願っていると話す。
生徒には主体性、教員には意識の変容が生まれた
科目のほぼ全てにおいて Chromebook がないと成り立たない授業展開になっているという。授業やテストはもちろん、学校活動の全ての基盤に Chromebook と Google Workspace for Education がある。
たとえば、商業科でのWebデザインの授業ではクラウド型のサービスを活用してホームページを制作。生徒会活動ではデザインソフトを活用して学校行事のポスターを作成するなど、各種アプリなども多用し、生徒は様々に Chromebook を使いこなしている。ICT活用に規制はあまりかけない。自分たちで使ってみて失敗したら改善し、一番良い使い方を身につけてもらう方針だ。生徒は「授業を受ける」から「授業に取り組む」姿勢に変化してきているという。
また、同校では Google Chat をコミュニケーションの中心としている。生徒同士、生徒と教員の間でも手軽に連絡や質問ができ、やり取りがこの1、2年でスムーズになった。職員間での校務における書面確認もチャットのリアクションで完了するなど、スピード感が変わってきたという。かつて大事とされてきた事柄も状況を見直し、現在不要であれば削除するなど、業務負担の軽減を図っている。
出席や成績管理なども Chromebook 上で全て完結。ベテラン教員が若手教員に使い方を聞いたり、逆に経験値が必要な部分はアドバイスをしたり、教員間で世代を越えた交流も生まれ見ていて微笑ましく感じるという徳永教諭。「教員であっても、何歳であっても、学び直す必要があるという事実に直面した先生は多いのではないかと思います。授業だけでなく学校全体でDXが進み、定型業務の自動化・簡素化を実現しています。それに伴って時間の使い方には大きな意識変革が起きたように思います」。2022年度は「先生たちの生徒と対話する時間をこれまでより10%増やし、その代わりにICTを駆使して校務を20%削減する」を教務部の年度目標に掲げ、ほぼ達成できたという。
既存の枠を越えていく
アントレプレナーシップ教育にも力を注いでいる同校。身近な課題の発見・解決から始まり、より良い社会を作るために自ら起業し、世界中の人と繋がるような生徒のサポートができる学校でありたいという徳永教諭。それには「越境」をテーマに、教科や学校の枠に囚われず、アンテナを高く張って情報を受信・発信する生徒を増やしていきたい。その全ての基盤となるものが Chromebook をはじめとしたICT環境だと考えているという。
「ICT環境さえあれば、時間も距離も人種も飛び越えられる。学校という枠を限りなく薄いものにして、社会なのか学校なのかわからないような状況を目指したいです。商業高校のロールモデルになれたらいいですね」と展望を語る。
ICT活用が定着し取り組みも先進的な同校。新しい形の商業高校のトップランナーとして、生徒が人生を切り拓く力を養えるよう、Chromebook は今後も大きな役割を果たしていく。
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