国内有数の制作スタジオで大量導入された「ASUS ProArt PA32UCX-P」の魅力と実力

    ASUS JAPANの32型プロ向けディスプレイ「ASUS ProArt PA32UCX-P」は、直下型ミニLEDを搭載し、さまざまな現場の要望に応えた新モデルだ。それを大量導入したバンダイナムコスタジオに、その理由と得られたものを伺った。


     バンダイナムコスタジオは、バンダイナムコエンターテインメント傘下でコンテンツ開発に特化して活動するクリエイター/エンジニア企業だ。「テイルズ オブ」「鉄拳」といった数々のビッグタイトルは、ここから生み出されている。

    エンターテイメントのプロバイダーとして、コンテンツに関わるテクノロジートレンドに対しては常にアンテナを張って情報収集を行い、積極的に検討し、制作機材もそれに対応していく必要がある。そのような同社内で、導入機材の検証や導入を支援する立場にあるのが「テクニカルアーティスト」として活躍する鈴木氏と山口氏だ。

    両氏は、社内で「HDR警察」とも呼ばれているという。HDR(ハイダイナミックレンジ)を含むテクノロジーについて実証データを含めた深く正しい知見を有し、HDRのあるところに現れて蓄積したノウハウを披露し、間違いを正していく……その評判はバンダイナムコグループ内に広く知れ渡り、社内チャットを通して技術的な相談をされたり、請われてセミナー(勉強会)などを開催したりするほど、全面的に頼りにされている。


    お話を伺ったバンダイナムコスタジオの技術スタジオ コアテクノロジー部 サポートユニット TAセクション TAパート3 鈴木雅幸氏(左)と、同TAパート2所属の山口翔平氏(右)


     その圧倒的な知見に裏付けられた、シビアな視点で選ばれた制作用のHDR対応ディスプレイが「ASUS ProArt PA32UCX-P」だ。ASUS JAPANの直販サイトでの販売価格は、税込みで32万2200円と、一般的な視点からすると高価な製品だ。しかし、鈴木氏と山口氏は共に「我々が知る限り、制作用に現実的に使える価格帯では他に選択肢はない」と言い切る。

    同社内では彼らのアドバイスに従って、これまで複数のプロジェクトにまたがって導入され、合計で22台の実績があるという。

    “HDR警察”が、ここまでお墨付きを与えるASUS ProArt PA32UCX-Pはどのような製品なのか、他の製品とどう違うのか。導入の経緯などを鈴木氏と山口氏に伺った。


    32型で4K(3840×2160ピクセル)表示に対応したプロ向けディスプレイ「ASUS ProArt PA32UCX-P」

    直下型ミニLEDバックライトを採用し、ASUS OCO (Off-Axis Contrast Optimization) テクノロジーの導入によりハロー効果を軽減している


    コンテンツ制作の現場ではHDRディスプレイは必須に



    ―― 御社の開発はどのような形で進行されるのでしょうか。

    山口氏 コンテンツの開発は、プロジェクト単位で進行します。例えば「あるシリーズの続編を作る」といったテーマが決まった段階でプロジェクトが発足し、チームが組織されます、全体を統括するゲームディレクター、アート部分を統括するアートディレクター、照明を担当するライティングアーティスト、火や魔法など特殊エフェクトを制作するVFXアーティストといった職種で編成されます。

    ――  お二人の立場についてお伺いします。テクニカルアーティスト(TA)という肩書きですが、具体的にどのような活動をされているのでしょうか。

    山口氏 プログラムを担当するエンジニアと、グラフィックスの制作を行うアーティストの間に入って、コミュニケーションを円滑にするお手伝いをしたり、制作用に導入する機材の検証や選定の支援などを行ったりしています。我々の多くは、もともとアーティストとして入社したのですが、1つのプロジェクトの固定メンバーとして動くのではなく、いくつかのプロジェクトに関わって必要に応じて加入したり、相談を受けたりといったことが多いですね。

    ―― 導入機材はどのように決定されるのですか。

    山口氏 導入機材はプロジェクト内で決める形ですね。ただし、コンテンツ制作業務には精通していても機材についての知識がある人は限られていますし、テクノロジートレンドもどんどん変化していきます。プロジェクトのテーマ、やりたいことに対してどういう機材を導入すればよいか、そういうところを我々がフォローする形です。最近はHDRディスプレイの導入についての相談をいただくことが多くなっています。

    ―― HDRで制作することが多くなっているということでしょうか。

    山口氏 進行しているプロジェクトが、最終的にHDRコンテンツとなるのかどうかというのはまた別の判断になりますが、開発段階では間違いなくそうですね。各ゲームプラットフォームが対応してきていますし、制作環境をそろえて、有力な選択肢として検討するのは当然と思います。

    鈴木氏 これまでは、プロジェクトチームによって対応が変わっていましたので問題もありました。一例を挙げると、ライティングアーティストはHDRディスプレイ、VFXアーティストはSDR(スタンダードダイナミックレンジ)ディスプレイで作業するということをやっていて、VFXアーティストが作ったエフェクトをライティングアーティストに渡して、HDRディスプレイで見たら輝度が不足していたといったような事例がありました。基本的にアーティストの作業環境はマルチディスプレイですが、SDRとHDRそれぞれ最低1台ずつ導入するようになっています。

    見ただけで輝度を言い当てる計測マニアが社内勉強会で情報を共有



    ―― HDRディスプレイの検証作業も実施されているのですか。

    鈴木氏 業務の一環として行っています。HDRコンテンツ制作を検討するならば、きちんと表示できる環境が必要となります。業務用のマスターディスプレイを導入しているのですが、リファレンスとして利用する一方、非常に高価(1台300万円以上)なので制作スタッフに広く支給するというわけにはいきません。常に現実的に制作に適した製品を探していて、情報収集を行いつつ、気になった製品は検証を実施してきました。

    ―― どのような検証をするのですか。

    山口氏 輝度がきちんと線形で出るかどうか、マスターディスプレイと比べてどれだけ違うのか、ベンチマークテストが収録された市販のBlu-ray Discも使って検証を行っています。

    山口氏 鈴木は、画面を見ただけで輝度のカンデラ数を言い当てることができます。

    鈴木氏 輝度を指定して表示させて計測するということを繰り返していますので……たくさん計測しているうちに、20%くらいの誤差で分かるようになりました(笑)。


    普段からさまざまなディスプレイを計測して、より制作に適したモデルの導入を検討しているという鈴木氏


    ―― 勉強会ではどんなことをされているのですか。

    鈴木氏 やはり実際に違いを見てもらうのが一番ですので、きちんと表示ができるディスプレイと「名ばかりのHDRディスプレイ」と並べて、さまざまな映像で違いを見てもらいます。例えば、片方は空が白く飛んでしまっているのに対し、片方は青空がきちんと表現できている。また、ものすごく暗い公園で撮った映像を表示して確認しています。

    ―― 暗い公園ですか?

    山口氏 最初は両方とも見えないんですが、目が慣れてくると、きちんとしたHDRディスプレイの方では見えてくるんです。最初は黒いだけに見える部分にもきちんとデータはあって、ディスプレイの方もその階調を表現できているからです。

    「最初はみんな10万円くらいのディスプレイだと思っている」



    ―― 今回、ASUS ProArt PA32UCX-Pを導入された経緯を教えてください。

    山口氏 今回は、進行中のプロジェクトチームからの相談を受けてお勧めしました。というよりも、現状、他に良い選択肢はないので、最近はいつもこれをお勧めしています。我々の部署の1台を含めて、累計ですと22台導入していますが、おそらく直近でまた増えるかと思います。

    ―― 税込みで30万円以上(直販サイトでの税込み販売価格は32万2200円)する高価な製品ですが、コストパフォーマンス的にはどうなのでしょうか。

    鈴木氏 最初はみなさん、そうおっしゃるんですよ(笑)。一般的な液晶ディスプレイは数万円ですから、ちょっといいものでも10万円くらいだろうと思っている人が多いですね。実際、以前は早まって、残念な品質のディスプレイを導入してしまっていたチームもありました。実際に比べて見せたら「もう使えない」となって、結局余計なコストがかさむ結果になってしまいました。

    山口氏 HDRの輝度や階調を、きちんと表現できるPC用のディスプレイは本当に少ないんです。実際に、こちらで説明して、画面を見ていただくと納得して30万円出していただけます。ビジュアルコンテンツを制作する上で、信頼できるディスプレイは欠かせないものですから、これだけ違うならのなら十分に説得力はあるかと思います。

    ASUS ProArt PA32UCX-P バンダイナムコスタジオ
    ASUS ProArt PA32UCX-Pで実際に画面を見せると、社内でも多くの人が納得してもらえるという山口氏


    ―― それだけ違うものですか。

    鈴木氏 まず、安い製品には輝度が線形(45度の直線)にならない製品が多いですね。指定した輝度をその通りに表示できません。HDR映像を表示すると全体に明るいだけだったり、白っぽい表示だったりの原因になります。

    ―― まさにそういう表示を見たことがあります。

    鈴木氏 ハロー(光漏れによるにじみ)の問題もあります。暗い背景に小さな高輝度が表示されると、ハローが出てしまいます。液晶の場合は原理的にある程度仕方ないところはありますが、その度合いは大きく違います。先ほどお伝えした検証用Blu-ray Discには、ディスプレイの特性がよく分かるような、表現が難しいシーンがたくさん収録されていて、酷いのになると忠実な表示を諦めて(高輝度の部分が)そもそも光らないという製品すらあります。

    ASUS ProArt PA32UCX-Pは「突出した表示性能」を備える



    ―― ProArt PA32UCX-Pは、その点どうでしょうか。

    鈴木氏 一部データをお見せしますが、この価格帯としての表示能力は突出していますね。輝度の計測機器としてコニカミノルタ製の色彩輝度計「CS-150」を使用しております。低輝度から高輝度まできれいな線形になっており、コンテンツの情報を忠実に再現できることを示しています。ハローの抑制についても優秀ですね。視野角によるハローも前モデル(ProArt PA32UCX)から比べて、大きく改善されています。

    ASUS ProArt PA32UCX-P バンダイナムコスタジオ
    鈴木氏から提供いただいたASUS ProArt PA32UCX-Pの計測データ。リファレンスのラインに沿っており、入力信号に対応した輝度が出力できている
    ASUS ProArt PA32UCX-P バンダイナムコスタジオ
    こちらは、正確なHDR表示ができていないディスプレイの計測データ。入力信号に対して期待した輝度が出力できていない。リファレンスの直線よりも角度が浅いため、全体的にコントラストが低く表示される


    ―― ハローの出方はローカルディミングの分割数で決まるのでしょうか。

    山口氏 ところが、同じスペックでも違うんですよ。ローカルディミング(エリアで分割して発光制御する)の分割数は当然重要な要素ですが、制御のアルゴリズムには各社の特徴が出ます。それに加えて視野角で出るハローというのがありまして、斜めからの視点になるとピクセルの横から漏れてハローになります。これを抑えこむためには、パネル側でも工夫が必要になってくると思います。

    ―― 前モデルのお話が出ましたが、ASUS JAPANのディスプレイに注目するきっかけはあったのでしょうか。

    鈴木氏 最初はスペックからですね。制作用HDRディスプレイを探している過程で見付けました。当時、DisplayHDR 1000に対応しているディスプレイは他にほとんどありませんでしたし、最大輝度1200ニト、1152のローカルディミングゾーン、ΔE<1の色差、99%のDCI-P3(89%/Rec.2020)対応の色域、10bit入力、ハードウェアキャリブレーション対応など、制作用の要件を満たしていました。

    ASUS ProArt PA32UCX-P バンダイナムコスタジオ
    ハードウェアキャリブレーションも対応しており、主要なキャリブレーターと互換性を確保する。X-Riteのキャリブレーター(i1 Display Pro Calibrator)がセットのモデル「ProArt PA32UCX-PK」も用意される


    山口氏 ちょうどCEDEC(ゲーム開発者向けカンファレンス)に実機が展示されていたので、そこでお声がけしたら、検証用に貸してくださるということになりました。そこで早速、計測させていただいて「これは良い」となってご縁ができたという経緯です。前モデルの時に指摘させていただいた視野角によるハローも新しい技術(ASUS OCO:Off-Axis Contrast Optimization)で大幅に改善されたので、より隙のない製品になったなと感じています。

    正確な表示のHDRディスプレイで作業したい人に唯一無二の選択肢



    ―― 今回導入されたASUS ProArt PA32UCX-Pの評価は、ズバリ何点ですか。

    鈴木氏 そうですね、80~90点くらいでしょうか。

    ―― 満点ではない理由は?

    鈴木氏 今後さらに良い製品を出していただける期待も込めて……というところです(笑)。こちらはマスターディスプレイの表示も知っていますし、ローカルディミングという仕組みを採用する以上、原理的にハローを完全になくすということはできません。

    ASUS ProArt PA32UCX-Pは、PC用HDRディスプレイとしては突出した表示性能とHDR再現能力を備えた完成度の高い製品ですし、コストパフォーマンスでいえば抜群です。制作に現実的に使えるHDRディスプレイとして、現時点で唯一無二の選択肢であるということは疑いがありません。

    ―― どのような人にお勧めしたいですか?

    山口氏 実際に、社内でコンテンツ制作に関わっているスタッフにお勧めしていますから同じような立場の人、HDRの正しい映像を確認しながら作業したいクリエイターにはぜひ使ってもらいたいですね。10万円くらいだと思っていると高いと感じるかと思いますが、投資に見合う価値はしっかりあると思います。

    鈴木氏 安いHDRディスプレイで制作してしまうと、きちんとしたHDRディスプレイで見た時に全然見え方が違ってきてしまい、その後で明るさや色を調整し直すといった、余計な手間やコストがかかってしまいます。初期導入コストは多少かかりますが、最初から正しいHDRの表示で作業された方が、トータルコストはむしろ低く抑えられるのではないでしょうか。

    ASUS ProArt PA32UCX-P バンダイナムコスタジオ
    ポートレート表示にも対応し、2基のThunderbolt 3端子や3基のHDMI端子、DisplayPort端子を備える
    ASUS ProArt PA32UCX-P バンダイナムコスタジオ
    カラーパラメータープロファイルは内蔵の専用ICチップに保存できるので、接続デバイスを変えても再設定の手間を防げる


    ―― 最後に読者へのメッセージをお願いします。

    鈴木氏 きちんとしたHDRディスプレイは、これくらいの価格はするものだと思った方がよいと思います。現状、ASUS ProArt PA32UCX-Pは、作業用のディスプレイとしては、ベストの選択肢です。HDRの普及のためにも、HDRコンテンツのクリエイターはぜひご検討いただきたいですね。

    山口氏 当社は、今後もHDR含めて新技術を積極的に取り入れて、よりよいコンテンツを制作すべく取り組んでいきます。制作環境をしっかりとそろえて、今後出来上がってくるコンテンツを楽しみにしていただけたら幸いです。



    ITmedia PC USER 2022年1月掲載記事より転載